M&Aで売り手がまずやるべきこととは?~その②~に引き、続き会社・事業を譲渡したい中小企業・個人事業主の方がまずやるべきことを解説します。引き続き売り手必見の、定石解説です。
1.売れやすい会社にしよう!
M&Aで売り手がまずやるべきこととは?~その②~ において、買い手の立場に立つ重要性を述べました。売れやすい会社、すなわち買い手にとって買いやすい会社とは一体どういう会社なのでしょうか。以下分析していきたいと思います。
- 社長に対する依存度が低い
- 優秀なNO2が存在する
- しくみで利益をあげている
① 社長に対する依存度が低い
中小企業の特徴は、オーナー社長の影響力が非常に大きい、という点にあります。売り手のオーナー社長の引退は、会社の企業価値を大きく下げる可能性があり、買い手にとっては最大の関心事と言えます。したがって買い手にとって買いやすい会社とは、社長がいなくても自律的に回る会社、すなわち社長の属人性を排した会社と言えるでしょう。社長がいないと回らない会社、社長が抜けたら売上が大きく落ちる会社は、買い手から見ると非常に買いにくい会社と言えますし、もし買うとしても価格の評価はとても低くなるでしょう。
② 優秀なNO2が存在する
M&Aで会社の評価が高くなる要因の一つとして、優秀なNO2が会社にいるかどうかが挙げられます。買い手から見ても安心して経営をまかせられる優秀なNO2がいることは買いやすい会社の条件になりますし、会社のことをよく知る人物の存在は、買い手にとって大変安心材料になります。会社買収後に優秀なNO2が昇格して社長になった方が、外部の人間が社長になるよりも良い場合があります。会社売却の事前準備として、優秀なNO2、NO3を育成しておくことも、M&Aの売り手にはに欠かせない準備となります。
③ しくみで利益をあげている
M&Aで売りやすい会社の条件として、利益が人の特性から生まれているのではなく、しくみから生まれていることがあげられます。なぜなら利益が特定人物の人脈や技術に依存している場合、その人物が退職してしまえば利益が出せなくなる可能性があるからです。社長の人脈や技術で利益を出している会社は、M&Aの買い手からすれば最悪の会社と言えます。上記でも述べた通り、社長が仕事をせずに遊んでばかりいるのにしっかり利益は出せている会社が、最も売れやすい会社だと言えるかもしれません。
2.公私混同を見直そう!
会社の売却を考える際、長い間会社を経営してきた結果の公私混同は許されなくなると考えた方が良いかもしれません。少なくとも会社売却の際、重要なものは清算を迫られるケースがほとんどです。会社売却準備を始める際に事前に実施すべき事項があり、これを前捌きと呼ぶことがあります。前捌きの具体的な例としては以下のようなものがあります。
- 株主の中に反社会的勢力がいないかどうか
- 経営に携わっていない同族役員がいるかどうか
- 会社と役員との間の取引(利益相反取引)
- 社長等の公私混同
このように中小企業の売却では、まず公私混同状態を解消することが必要です。特に社長の公私混同は事前に解消することで会社の利益が増大し、希望売却価格が高くなるケースがあります。例えば社長が個人の生活費を会社費用として落としていた場合、その費用が消えれば営業利益が増える可能性があるからです。M&A仲介会社及びFAのヒアリングや会社短期調査を踏まえ、会社売却を始める前に十分な検討が必要です。
3.買い手にとって不要な資産とは?
買い手にとって営業を続けていくうえで必要な資産は別に、不要な資産はどのようなものでしょうか。例えば社長が趣味で行っている投資用の不動産や投資用の有価証券、有効活用されていない土地、建物、社員の社宅等、色々考えられます。M&Aで会社売却の際、主に以下のものが不要な資産として指摘されることが多いので、注意が必要です。
- 社長の自宅(土地・建物)
- 社長の自家用車
- ゴルフ・リゾート会員権
① 社長の自宅(土地・建物)
中小企業の社長の中には、自宅を社宅とすることで家賃を経費にしている方が多くおります。節税として有効な手段だからです。しかしながら社長は会社売却の際引退してしまうことがほとんどなため、買い手にとっては全くもって不要な資産と言えます。 会社売却の際に必ず買い手から買取を要求される代表的な資産と言えるでしょう。
② 社長の自家用車
日中の社長の足代わりで用いている営業車であれば問題ないかもしれませんが、必要以上に高級車であったり(ベンツなど)、社長が自家用車のように使っていて、自宅が駐車場になっているようなケースだと不要資産と見なされます。必ず買い手から買い取りを迫られることになります。その際、時価による買取を要求されることがほとんどですので、ご注意ください。
③ ゴルフ・リゾート会員権
よく見かけるのが、社長の趣味で購入したゴルフ会員権・リゾート会員権です。会社の従業員が全員ゴルフが好きで、福利厚生として非常に重宝しているというならまだ必要かもしれませんが、大抵は社長個人の趣味で購入した、特定の仲間とだけプレーするためのものです。社長しか利用していないリゾートマンション会員権なども同様に、買い手は全く興味ないと考えたほうが良いでしょう。会社売却の際に必ず買い手から買取を要求されます。
4.書類を整理しよう!
買い手にとって、売り手の会社が規程類を整備しているかどうかは、M&A判断材料の一つとなります。規定類の意義は、共通のルールをもって会社が運用されてきたかどうかを示す資料だからです。規定類は従業員目線、社外関係者の目線で客観的に納得感を持てるものにしましょう。以下、M&Aで重要な規定類をピックアップして解説いたします。
- 株主名簿
- 株主総会・取締役期議事録
- 労働関連規定
① 株主名簿
売り手の皆様は株主名簿の重要性をご存知でしょうか。株主名簿が義務化されている大きな理由は、会社にとって影響力のある株主を会社が把握しないわけにはいかないからです。そのため株主名簿の作成や更新は義務化されています。中小企業の場合、株主数が非常に少なく株主名簿の作成や更新にそこまで手間がかからないケースがほとんどです。必要な書類として事前に準備しておきましょう。
② 株主総会・取締役会議事録
株主総会・取締役会議事録を作成する大きな目的は、会議や打ち合わせの中身を記録して、その情報を周知、共有することです。会議の内容や討議の経過、決定事項、誰が出席していたかなどをしっかりと記録しておくことで、その会議に出席できなかった人にも必要な情報を正確に伝えられるでしょう。また、会社売却手続きが進むと、資産査定(ディーデリジェンス)を行う場面が出てきます。その際、過去に重大な決定が行われていないか必ずチェックされることになります。
③ 労働関連規定類
就業規則・賃金規則・労使協定等、労働関係の規程類は、会社を買う際に行われる資産査定(デューデリジェンス)で必ずチェックされます。そのため買い手が安心するような、現場の従業員目線で作成されていることが大変重要になります。労働関連規程類が、買い手や従業員にとって納得いくようなものであるかどうか、是非見直しましょう。
売れやすい会社にするために必要な事前準備の重要性について述べてきました。その重要性をご理解いただけたでしょうか?準備が完了すればいよいよ会社売却の手続きに入ります。会社売却で後悔しないよう、入念な準備を行いましょう。